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…だから俺は言ったのだ
「ここは君の帰る場所」
ナゼ この手を振り切った?



闇に浮かび上がる提灯の列。
賑やかな囃子の音。
さざめきあう喧騒。

けれど、その喧騒に包まれた町を、似つかわしくない白いコートの3人組が歩く。一様に、異様に厳しい顔をして。
道行く人々は、その集団に畏怖を抱いて道を開けた。
男達はまっすぐに目指す。

今は祭の色に包まれた、社の境内を。









二人はほんの少しだけ迷って、祭の中ほどに会場へと訪れた。

「もう、やっとついた〜 斯斬が迷うからだよっ」
ぷくーっと膨れている少女に、元凶はお前だ、などとはあえて言わない。
少女も本当はわかっているから。バツの悪さに拗ねているだけだ。

「ほら、腹が空いただろ。何か食べよう」

苦笑を見られないようにしながら、手を引いて屋台の列を示す。色とりどりの昇りに、累杷の不機嫌そうな眉根もすぐに解ける。
逆に斯斬を引っ張るようにして屋台へ近づき面白そうに覗いているのに、逆らわずについて歩く。

「見て、綿飴! こんなところでも売ってるんだねー」
「そうだな…」

ふわりと、濃厚な砂糖の甘い香りに包まれたその露店には、紙袋に納まった綿のような菓子がいくつもぶら下がっている。そして、屋台の中では熱で溶かした砂糖をふいごで細く飛ばし、それを慣れた手つきで棒に絡ませていく職人。甘い香りとどこか不思議なその光景に、子供が夢見心地に集まって騒いでいた。

砂糖菓子は東の国では貴重だった。…箱入りの累杷でさえ、祝い事の席でしか口に出来ないほどの。この辺りでは、菓子としてこんな風に振舞われるくらいには安価なものらしかった。
「斯斬、僕、綿飴と、あとあっちの…」
綿飴を示した後、隣の露店に並ぶ琥珀色の…こちらも甘い鼈甲飴を指し示す累杷に、
「もう少し実のあるものも食べなきゃダメだ。」
指先を封じて諭すと、不満そうな顔で見上げてきた。
…でも、ここは譲れない。
食が細いのはもともとだけれど、今は良く動くのだから、多少は食べてもらわないと困る。

「…ほら、あれなら好きだな?」

示すのは、焼き団子の屋台。
甘めの醤油や味噌を絡ませて炭で焼くので、その一帯には香ばしい香りが漂っている。

「…餡子がいい……」
「わがまま言うな」

素早く買ってその手に握らせると、しぶしぶと口に運ぶ。

「はたはめも…(綿飴も)」
「はいはい」

ご希望の品ももう片手に持たせてやると、納得したのか腕を絡ませてきた。
そのまま、ふらふらと屋台を巡る。


 * * *


「斯斬、あれ、あの毬が欲しい〜!」
「ん…? あの赤いのか? …待ってろ…」

居並ぶ数々の景品の中から、累杷の指名する赤い毬を狙っておもちゃの猟銃を構える。
精神を研ぎ澄まし、紺色の眼光が鋭くなる。

「―――――ッ!」
タタン!

「はーい、残念! 残念章はこのかごの中からね〜」

ころころと転がったのは玉だけで、屋台の主人が満面の笑顔で良く分からない駄菓子をつめた籠を持ってきた。
「わーん、ばか〜 斯斬のへたっぴーっ」
きーきーと叫ぶ累杷に、斯斬がすまなそうに頭をかく。


 * * *


「まだやるのか…?」
「次は絶対掬えるの…!」

水槽の中を気持ちよさげに泳ぐ小さな赤い魚達を、親の敵のように睨む累杷が、
白い袖を翻してネコのように網で救い上げる。
(もちろん、袖が水につかないように、斯斬が後ろで支えている。)
一瞬だけ網に乗った金魚は、
だがしかし、野生の本能とでも言うべき反応速度で跳ね上がり、

――――――ぽちゃん

また悠然と水槽の中に戻っていった。
後に残ったのは、強靭な尾によって穴の開いた救い紙。

「えええええ またぁ?!」

「はいはい、嬢ちゃん、頑張ったから一匹上げるから、ね?」

わんわんと泣き出した累杷に、親父も汗をかきながら小さな小鉢に移した金魚を見せてやる。
悔しそうにそれを睨む姿をなだめながら、ありがたく受け取る斯斬。

「すまない…」
「気にするな」
金魚とにらみ合う累杷を背に、斯斬の方を屋台の親父が優しく叩いた。


 * * *


片手に林檎飴、もう片手に赤い小さな金魚の入った小鉢。
落ち着いたのか、腕を絡ませたまま静かになった累杷をつれて、斯斬は少しだけ祭の喧騒から外れて社の境内へと来ていた。
少し喧騒から外れると、そこは夜の気配と涼やかな虫の音に満ちていた。

「ね、斯斬、」
「ん?」
「お祭って楽しいね」
「あぁ」

声が静かになっている。…疲れたのかも知れない。
手近な石段に腰掛けるように促すが、累杷はそれには従わなかった。


「…また、斯斬と一緒にお祭来れるといいなぁ…」


瞬間、なぜだか、辺りの虫の音もやんだ気がした。
一瞬の、耳が痛くなるような静寂。
そして。


―――ドーン!!


「!!」

一瞬、真昼のように浮かび上がる辺りの景色。
白い累杷の横顔。闇夜に映える、白い着物。

「花火…?」

夜空を見上げると、大輪の華が続けざまに打ちあがった。

「きれいー…」

白い顔がほころんで、何事もなかったかのように笑う。
今の一瞬の違和感など、何もなかったかのように。

けれど。


空の花の轟音に混じったかすかなその音を、斯斬は聞き逃さなかった。

じゃり、と土を踏む音。背後のそれに、ゆっくりと振り返る。
隣の累杷もいつの間にかその方を向いていて。

赤い兎のような目を見開いて。



『お前に、その資格があるとでも思うのか!?』

『貴方には関係がない。 俺は』

『僕は この人と いく…――――――――!!』




斯斬と同じ白コート。後頭部に撫で付けた黒髪。
長身の男が、静かにそこに立っていた。


「久しぶりだな、斯斬、……累杷」


赤茶色の瞳にふぅっと立ち上る色は、狂おしくて。
静かに睨み返す青年を超えて、立ち尽くす少女を射抜く。
射止められたかのようにぴくりともしなくなった少女の、赤い瞳と赤茶のそれが交わりあって。



「……………にいさん………」



 色をなくした唇が、小さくつぶやいた。
血の絆ほどに
絡まり、縛り合うものはなく


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