華
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頭の隅で、何かが警告音を発する。 メ ヲ サマセ・・・!! 視界が、ふいに焦点をとり戻しだす。 桜の向こうの、真っ白い月。 体の上の少女の、何かの花の、甘い甘い香り。 ぱさり ぱさり ..... 耳元をくすぐる、少女の長い髪の擦れる音とは別に、なにか乾いた音が響いていることに気がつく。 (何の 音 ―?) 緩慢な思考が、薄くしびれる眼球をゆっくりと動かして、夜空を仰ぐ。 大きな月。 天上を覆う ・・・・・・巨大な何かの生物の骨の様な、枝。 「・・・・・・・!!?」 見開いた視界。 少女が俺の気配の変化に気がついて、ゆっくりと身を起こす。 夜空と青白い月を背負って、明るい月光の元、少女の紅色の瞳と唇が薄く輝く。 その天上から、乾いた桜の花弁が散り落ちていた。 ・・・・・・・・・・・一枚も、残すことなく。 「・・・・どうしたの?」 死に行く花を背負って、少女が不釣合いに、いっそ清純なほどに美しく微笑む。 「桜 が ・・・・・・」 絞り出した声は、情けないほどに掠れていた。 俺の言葉に、けれど少女は悪戯気に微笑む表情を崩さない。 そして、白魚のような細い腕が、俺の顔の横にいつの間にか降り積もっていた白い花弁を掬い取った。わずかにみずみずしさを残していたそれは、少女の目の前で見る見るうちに朽ちていく。 やがて、美しい薄紅から、干からびたハシバミ色へと姿を変えて、 少女がそれに興味を失った様に、無造作に地へと還した。 「足りないの。木の精気なんかじゃ、足りない。」 「君・・・・は ・・・・・・」 呆然と見守る目の前で、少女の顔が再び首元に埋まった。 「・・・・・・・・やめ・・・ろ・・・・・・ !!!」 ぞくりとして、俺は痺れる体を叱咤して必死になって覆いかぶさる体を振り払った。 見た目よりもずっと軽い少女の体は、俺の力に飛ばされて、どさりと花弁の中に倒れ伏す。 白い着物の上に鮮やかに広がった長い髪を見て、自分がひどく乱暴な事をしたきがした。 (けれど…!) 嘘のように軽くなった体で、改めて回りを見る。 溢れんばかりに咲き誇っていた桜の姿はどこにもない。 地面に降り積もったその残骸は、みずみずしさの欠片もなく、まるで色の薄い落ち葉のようだった。 そこに先ほどまであった、酔うような精気はどこにもなかった。 「食った…のか? これは、全部、君が…?」 桜の大樹は、干からびた老人のような樹皮に変わって、きっともう夏になっても葉を茂らす事はない。来年は、桜を咲かすこともない。 そこにあるのは、精気を吸い尽くされた、朽ちていく「モノ」だった。 「俺を・・・・ 俺も、こんな風に・・・・・・・・」 その先は恐ろしくて声にはならない。 呆然と見下ろす先で、伏したまま動かなかった少女が、ゆっくりと顔をあげた。 白い面に、艶のある黒髪が乱れ掛かり、影に浮かび上がる紅の瞳に赤い唇。 凄艶、と呼ぶのだろうか。くっきりと紅を引いたような唇が、呆然とした様から、くつり、と笑みを浮かべた瞬間に、視線から体までを縛された様に動かせなくなる。 「なんで酷い事するの… 分けてくれるって言ったじゃないですか…?」 くすくすくす................. 『甦りし者は生前の姿生き写し。 されど、その者は年もとらず永遠にその姿のまま。 なぜなら、死者がこの世に戻る事など有るはずが無く、 ・・・・その中身は黄泉より現れし異形であるから。』 ふいに、何処かで読んだ、反魂の戒めの文句が蘇る。 黄泉より現れし異形であるから 赤い瞳が迫る。動けない俺に向かって、病的なまでに白く透けそうな細い腕が伸びてくる。 細い指が俺の法衣の袂をつかんで、優しく引き寄せる。 動けない、動けない、動けない、動けない、動けない動けない動けない動けない動けない動け動け動け動け動け動け動け動け 動け!!!!! 「う わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 喉が裂けるほどに叫んで、たぐり寄せる腕を振りほどく。 叫べ。叫ぶ声は気合。術を弾く力がある。恥も外聞もない。叫んで振り払え。 捕われる、俺はもう彼女の術中なのだ、ここにいてはいけない。 逃げなければ・・・・ 食われる!! 人にいる場所へ お師匠様の所まで 誰か俺を連れられる人のもとへ 今彼女に動くなと言われたら、きっと俺は動けなくなってそのまま・・・・ 誰か・・・!!! 「累杷!!」 背後で響いた鋭い声。 振り向いたその先に、彼女の連れが。長身の黒髪の男。 斯斬の姿があった。 |
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